よくお酢と重曹を使った掃除方法やカビ取りが紹介されているのを見ますが、実際どのような仕組みで効果が出るかという、理屈を交えて説明しているところはあまり無いようでした。ここではこの方法の仕組みと効果の程を解説します。
お酢と重曹を使ったカビ取り法
用意するもの
- お酢
- 重曹
- 適当な硬さのブラシ
- 霧吹き
まずカビを取りたい部分にお酢を霧吹きなどで吹きつけ放置します。お酢は少量のお湯に溶いて温度を上げるとより効果的になります。放置する時間は10~30分が目安です。その後、そこをブラシやスポンジなどでこすります。こすって落とせる分はできるだけ落とします。
そのあとお酢を流してしまわずに重曹(粉のままでOK)をかけます。このとき泡が出てくることを確認して下さい。それから数分放置したあと、こすりながら洗い流します。お酢の成分であるアミノ酸などが残ってしまうと、それがカビの餌となってしまうので念入りに流して下さい。これで完了です。
お酢がカビを殺菌する仕組み
まずお酢を吹きかけて放置するところですが、これは酸性を利用してカビを殺菌するというわけではありません。お酢のpHは原液で3前後ですが、カビが生きられるpHの幅は1.5~11です(菌によって数値は違います)。お酢の酸も別の意味で有効なのですが、殺菌効果を発揮してくれる理由は、お酢の主成分である酢酸にあります。
酢酸はカビや細菌などの微生物の膜を通過することができます。膜を通過された細胞は酸性化して、タンパク質が変性します。これがお酢による殺菌の仕組みです。
先ほど酸も有効だと書きましたが、これは酢酸がカビの膜を通過するには、pHが低いほうがいいからです。つまり、酸性になるほど、酢酸がどんどんカビの細胞の中に入って作用するということです。なので、お酢を吹きかける時は原液に近い濃度がいいのです。
重曹を使う理由
お酢に殺菌効果があるなら、それで洗い流せばいいじゃないかと思うかもしれません。半分はその通りです。ですが、重曹を使うのにも理由があります。
それは炭酸を発生させるためです。重曹は重炭酸ソーダの略で、化学式で書くとNaHCO3です。これに酸(お酢)が加わると酢酸ナトリウムと炭酸を発生し、炭酸は水と二酸化炭素になります。
酢酸ナトリウムは弱アルカリ性ですが、これもまたカビを殺菌するほどの強さはありません。この方法がなぜ汚れを落とすのかというと、二酸化炭素のシュワシュワとした泡立ちが物理的に作用するからです。炭酸水で掃除すると、水でするより汚れが取れるのと同じです。
要はダメ押しというか、よりカビ汚れを落としやすくするために使うのです。
メリットと効果について
- 塩素系漂白剤と違って、塩素による環境への影響が少なく臭いもしない。
- 手荒れなどのリスクが小さい。
- 炭酸ガスがシュワシュワと出るので、物理的な作用もある。
- お酢と重曹を常備している家庭ではコストが余分にかからない。
これだけメリットがあります。環境への影響や手荒れリスク、という点を重視するなら、カビに対してより効果のあるアルコールを使うという選択肢もあります。成分表を見るとお酢にもアルコールは入っていますが、0.02%程だそうで効果的な濃度だとはとても言えません。
アルコールはすぐ蒸発するので、浸透させたいときに難点があります。ゴムパッキンのカビ取りなどで、薬剤を浸透させたい場合はこの方法か、あるいは素直に漂白剤を使うほうがいいでしょう。
お酢というのは食品であって、殺菌目的で開発されたものではありません。消毒用エタノールは最大限効果を発揮するために濃度調整されていますが、お酢に含まれる酢酸はそういった基準で濃度を決めていません。過度な期待はしないようにしましょう。
デメリット
- 殺菌力が弱い
- 2種類使うので手間
- お酢の成分が残るとカビの餌になる
- お酢に弱い物、重曹に弱い物の両方に使えない
殺菌力が弱いというのは、酸性にもアルカリ性にも大きく傾きませんし、漂白剤のように活性酸素も発生しないからです。手間がかかるというのは、お酢と重曹2つの物を使いますし、共にカビを取りたい部分に吹きかけたりしてから放置する時間も必要だからです。さっと掃除したい時に歯がゆいのではないかと思います。
成分が餌になるというのは上の方で書いたように、お酢にはアミノ酸等が含まれるからです。カビ取りの後に流し残しがあるとそれが栄養源になってしまいます。
お酢と重曹のどちらか一方にでも弱い素材には使えないことも大きなデメリットです。大理石・鉄製品がお酢に弱く、畳・アルミ・木・竹製品などが重曹に弱いです。
まとめ
お酢と重曹を使ったカビ取りは、実際に効果があります。ですが、やはり万能の方法ではなく、デメリットもあります。もっと強い薬剤を使いたい、あるいは早く済ませたいなど、その時の状況は違ってきます。
この方法も手段の一つとして見て、その時に応じて効果的なカビ取りができればいいと思います。